<1>学校健診について
学校では新学期が始まると間もなく健康診断が行われます。身長、体重などの身体測定の他多くの検査が実施されますが、眼に関係したものには毎年全児童に行う「視力検査」と、眼科学校医による目の健康診断があります。また一部地域では希望者に対する「色覚検査」が実施されています。今回はこのうちの「視力検査」について話してみることにしましょう。
<2>最近の視力検査
これをご覧の多くの方は視力検査といえば、平仮名やランドルト環と呼ばれる一カ所が欠けた輪が一面に書かれた「視力表」を思い起こされることでしょう。視力表は原則として5メートル離れた所から読みます。
上方の大きな視標が読めれば視力0.1以上で、下に進むにつれて0.2、0.3、と0.1刻みの視力に相当する視標が、順次小さくなって表示されています。授業を中断してクラスごとに保健室へ集まり、名簿順にその視力表を読んでいった光景を覚えておられることでしょう。
あの平仮名やランドルト環がいっぱい書かれた視力表、「字づまり視力表」が学校の視力検査ではだんだん使われなくなってきているのをご存じですか。多くの視力検査では20センチ四方の白い樹脂板の真ん中に0.3/0.7/1.0の視力に相当するランドルト環が書かれた3枚の視力表、「字一つ視力表」を使って視力を測っています。
<3>見え方の4段階表示
ところで学校に通っておられるお子様がおられる方はすでにご存じかもしれませんが、一部の学校を除けば、視力検査の結果を知らせる学校の報告書には現在0.1刻みの視力の値は書かれていません。見え方の表示を視力のかわりに「A」「B」「C」「D」の4つの記号で行うようになりました。これは従来の視力を4段階に区切ったもので、検査は視力0.3/0.7/1.0の3つの視標だけで行うことから「370(サンナナマル)方式」と呼ばれています。学校ではこの4段階の表示を次のように判断して教育上の配慮を行っています。
「A」は視力1.0以上に相当します。
「B」は視力0.9〜0.7に相当し、学校生活にはほとんど 支障のない見え方です。
「C」は視力0.6〜0.3に相当し、教室での授業に多少の影響が見られるため何らかの対策を必要とします。
「D」は視力0.2以下で、教室の最前列でも黒板の字が見えにくいために早急な対策が必要です。
また「A」以外は医学上、正常な視力に相当せず、近視、乱視、遠視、その他の眼の病気が関わっていることもあるので、保護者には「受診勧告のお知らせ」が配られ、子供達ができるだけ眼科を受診できるように配慮されています。
<4>検査方法が変わった理由
今だ全国の学校の保健室にはランドルト環や平仮名がいっぱい書かれた「字づまり視力表」が置かれていることと思います。記録をたどれば、明治8年、後に東京大学の初代眼科教授となる梅錦之丞が、師範学校に近視の生徒が多いことを知り、日本で初めて学校に視力表を持ち込み視力検査の大切さを唱えたとのことです。以後100年以上の間、「字づまり視力表」はいつも視力検査の主役でしたが、今や「字ひとつ視力表」がこれにとって変わろうとしています。
ではなぜ学校での視力検査が変わったのでしょうか。主な理由として「視力」は医療の単位として作られたもので、そのまま学校現場にあてはめるのは合理性に欠けるという考え方が以前よりありました。また学校での視力検査は本来、子供達の見え方が学校生活に適しているかどうかを知るための検査であるべきとも言われてきました。
有名な調査があって、教室では0.7の視力があると後方の席からでも黒板の字が容易に読めるが、視力が0.3をきると一番前の席からでも黒板の字が読みづらくなることが報告されています。このことから子供達の見え方が視力0.7以上かどうか、また0.3未満かどうかを知ることが授業を行う上で大切だということがよく分かります。これに医学的に正常な視力1.0を加えて提唱されたのがここで述べてきた「370(サンナナマル)方式」なのです。教育的配慮に応じて視力を4段階に区切り、より学校に見合った合理的な検査が行われるようになったのです。
視覚は学校生活だけではなく、人が生活していく上で最も大切な機能です。学校からの視力検査の報告書を見る機会があれば、ちょっと注意して目をとおしてみましょう。そして眼科受診の必要がある時にはぜひお子様を受診させるようお願いします。何よりも大切なお子様のために。